Monday 16 January 2012

因果的閉包性

茂木健一郎

 自由意志について考える際に前提になることの一つが、この宇宙の因果的発展が、物質の間の相互作用を通して「閉じている」という「因果的閉包性」(causal closure)である。

 ここにおける「因果」ということを、日常の生活レベルにおける素朴な「原因」や「結果」の認識と混同してはいけない。日常生活では、たとえば、「あいつが元気がないのは、彼女に振られたからだ」というようなかたちで「原因」や「結果」が語られることもある。しかし、このような場合、「元気がない」という「結果」が、「彼女に振られたから」という「原因」に基づくものかどうか、厳密にはわからない。実際には、お腹の調子が悪くて元気がないのかもしれないし、天気のせいなのかもしれない。

 日常生活における「原因」と「結果」の関係の知覚は、結局のところ顕著な事項の間に推定された結びつきを認めるだけのことであって、そのような曖昧な関係性が心と脳を結びつける第一原理にはなり得ない。

 因果的関係は、また、いわゆる「相関」とも異なる。ここに、「相関」(correlation)とは、一つのイベントともう一つのイベントの間に、ある確率で関係性が結べるということである。そのような「確率的」な関係はアンサンブルを前提にしているため、こちらも、心と脳の間の相関を記述する第一原理にはなり得ない。

 心と脳の結びつきを記述する第一原理になり得るのは、物理学における「ハミルトニアン」のような、あるシステムの時間発展を記述する必要にして十分な因果的連鎖である。この意味において、初めて私たちは「因果的閉包性」を議論できる。素朴心理学(folk psychology)における「原因」と「結果」は、ここで議論する因果的閉包性とは、直接の関係を持たないのである。

4 comments:

  1. Please go ahead with this argument.

    I read your book published with NHK books.
    That helps me to understand the brain.

    Though I am still weak in physics and math... ha-ha.

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  2. あくまで単純な仮説だけど、動的制御をしようとすると、数学的に複素数を扱わなければならなくなる(実数時間軸(r)と、虚数時間軸(i、イメージ、意識))。また、五次元方程式が無いため、それ以上の次元の処理をする場合、脳は意識を発生させるのでは?。
    発達心理学者のピアジェが5番目発達段階の具体的操作期、6番目を形式的操作期で、言っているように、脳内でイメージ操作で解決が出来るということです。AIを作る上で、AIがAI内で、高度な問題解決のシミュレーションを行なおうとすると、実験空間と実験イメージが必要になってくる。ここら辺で、AI+α=脳、の問題に近づかないか?

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  3. 宇宙全体および脳内の物質の振る舞いの時間発展が決定論的であっても、心(主観性)は1プランク時間後に自己が何をするのかを(そのためには自己に因果関係を及ぼす光円錐内の全ての事象を情報処理しなければならない)知覚する能力を欠いている。よって少なくとも主観性は自己が自由意志を持っていると感覚する。

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  4. 因果関係と言えば、「お金」とか面白いのでは?

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